梶井基次郎を推す記事
この記事はklis Advent Calendar 2017 5日目のために書かれました。
klis Advent Calendar 2017 - Adventar
自己紹介
klis16のイエロー担当、chrです。
ここは導入なので、箇条書きでいきます。
出身:庄内平野のどまんなか
所属:クラ代スト研文芸部、東北合同県人会、この冬新たにげんしけん
klisに来た理由:
・知識情報ってなに?つよそう!
・図書委員歴8年、ここまできたらとことん図書館に粘着したろ!w
klisで学びたいと思ってたこと:
・「知識情報」ってなに?→知識情報概論にて解決
・「知る」ってどういうこと?→哲学にて解決
・「物語」と「私小説」の違いってなんだ?「私小説」を書く人は何を考えているんだ?
……これを考えるきっかけになったのが、文学家・梶井基次郎です。
高校1年で雑に手に取った小説が、大学2年の今に至るまで、そしておそらくはこれからも、私の心を慰める存在になろうとは……
(文ストの梶井基次郎ではありません、読む気も起きません)
高校に「興味のあるテーマで研究をしてみよう!」みたいな授業があり、そこで1年かけて梶井基次郎の研究(?)をしたので、彼についてはちょっとだけ詳しいです。思えば私の「狭く深く」なオタク・スタイルはここに萌芽していたのかもしれません。
klisの2017年を締めくくるアドベントカレンダーの1日分をお借りしまして、彼の魅力を書き連ねさせていただきます。
梶井基次郎紹介
梶井基次郎(1901-1932)
大阪に生まれる
→西洋美術や当時の文学(白樺派)に傾倒する
→学校を無理やり卒業し、東京帝大文学部に入るも、放蕩
→執筆を始めるが、思ったように評価されず焦る
→雑誌『青空』を創刊
→肺結核により夭折
→死後、作品が評判となる
梶井の人生抜粋です。
屋台をひっくり返したり、酔っ払ってひっくり返ったり、遊郭に行ったことを友人にイキり散らしたり、美少年に惚れたり、いろんな小話があります。
人生不適合者って感じですね。
調子ばかり良くて実はどうしようもない人間だったみたいですが、肝心の小説はとてもとってもとーーーーーーーーーーーーっても、すんばらしいです。
青空文庫(梶井基次郎 檸檬)にもある代表作『檸檬』から、好きな部分を抜粋します。
「えたいの知れない不吉な塊が私の心を始終
圧 えつけていた。焦躁 と言おうか、嫌悪と言おうか――酒を飲んだあとに宿酔 があるように、酒を毎日飲んでいると宿酔に相当した時期がやって来る。」
「
何故 だかその頃私は見すぼらしくて美しいものに強くひきつけられたのを覚えている。(中略)雨や風が蝕 んでやがて土に帰ってしまう、と言ったような趣きのある街で、(中略)勢いのいいのは植物だけで、時とするとびっくりさせるような向日葵 があったりカンナが咲いていたりする。」
「それからまた、びいどろという色
硝子 で鯛や花を打ち出してあるおはじきが好きになったし、南京玉 が好きになった。またそれを嘗 めてみるのが私にとってなんともいえない享楽だったのだ。あのびいどろの味ほど幽 かな涼しい味があるものか。」
(檸檬ゲット後)
「あんなに
執拗 かった憂鬱が、そんなものの一顆 で紛らされる――あるいは不審なことが、逆説的なほんとうであった。それにしても心というやつはなんという不可思議なやつだろう。」
はあ好き。
私から見た彼の文章は、美しい鬱と表現できます。ファッション・メランコリーを患った私の触角に訴えかけてきたのが、梶井基次郎のモノホンの鬱です。
彼の文章の特徴をまとめると、
①「観察眼」
私が日頃感じながら言葉にしようとも思わなかった素敵な瞬間が、いくつもいくつも登場します。それができる彼を尊敬しつつ、尊敬する彼と同じことを感じていたと気づいて誇らしくなります。
②「表現力」
お願いですから1作品だけでも通して読んでください。登場人物と同じ足跡を辿り、同じものを目にしているように錯覚できる緻密な言葉遣い、現実逃避に最適です。
③「にじみ出る鬱」
人生を諦めたような投げやり感が、ところどころ匂います。結核にかかった晩年の彼は、逃れられない死に苦しんでいました。そんな状況での、美しい風景への強い憧れが、小説の主軸になっています。
梶井基次郎を読んだ私の受けた影響(自分語り)
思春期のダークサイドに浸っていたころ、初めて読みました。
読みながら、嬉しくなりました。
何も為せない役立たずな自分を抱えて生きることは敗北ではないって、梶井基次郎が気づかせてくれた、ような気がしました。
大切なのは、外の世界に目を向けることだと。
自分の存在が干渉しない美しさが、生きることを楽しむには必要なんだと。
自分の存在価値をゆだねてもいいような美しさが、虚無に思える人生を明るくする。人間は美しさに生かされるんだと。
梶井基次郎、一生ついていきます。……亡き人だ。
彼と同じ時同じ場所同じ状況に生まれていたら間違いなく惚れていた、間違いなく
同時に、彼の書いた不思議なジャンルの文章に興味が湧きました。
「私小説」です。
自分自身を文字にやどらす。
何もないところから物語を編むのではなく、自らの人生を書く。
思想に基づいて世界を作り自分と全く別のキャラクターを動かすのではなく、自らが感じたことを取り出して残す。
自分に似ている作家が書いた私小説は、読み物を超えて、人生の指南書になるんじゃないかと、考えました。
自らの哲学のみで立ち、自信をもって生きていける人間はそういないのではないでしょうか。
不安な人たちが、「私小説」に気付かないのはもったいないんじゃないかなあ、なんて考えたこともあります。
誰かのためになる「人生の指南書」、届けたいですね。
司書がそういう仕事だと夢見ていましたが、現実はそうゆるふわじゃありませんでした。
まとめ
彼の作品を他の文学家と読み比べたり、彼が好きだった森鴎外やら志賀直哉やらセザンヌやらニーチェやらに手を広げたり、する気はあんまり湧きません。
梶井基次郎が人生で一番好きな文学家です。
好きな人ができるのって、所詮は偶然の出会いと「なんとなく」ですよね。他の数十人のデータを集めて、もっとも自分にふさわしい人間は誰かの検証なんてしないですよね。
そうです、めんどくさいんじゃないんですよ。決して。ええ。決して。
つらい心を慰める美しさを死ぬまで探し求めた梶井基次郎、推しです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。長いですね。すみません。
最後まで見る人が少ないと予想されるのですが、締めくくる前に布教をば。
彼の人生、文庫本1冊に結晶しています。klis最寄りの図情図書館にもあります。
情弱のためtulipsへのリンクがうまくいかないので、「檸檬」でOPAC検索してください。お願いします!
私小説に興味ある人、人生つらい人、鬱々した雰囲気が好きな人、現実逃避したい人、
どうぞ、おいでませ。
参考文献